9月18日に出た、5ページ
国税庁は9月18日、「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達(案)を公表した。政府の e-Gov(電子政府の総合窓口)の意見公募に案件番号410080055として載り、受付は同日17時に始まって10月18日17時に閉じる。根拠法令の欄には相続税法22条(時価主義)と書いてある。所管は国税庁課税部資産評価企画官審査係。
公表されたのは3点である。意見公募手続実施要領が1ページ、別紙1の概要が2ページ、別紙2の通達案そのものが5ページ。通達案は、財産評価基本通達(評価通達。昭和39年の国税庁長官通達で、相続税と贈与税の財産の値を決める)の第2章から第4章までと、令和5年9月28日付のマンション通達——「居住用の区分所有財産の評価について」——の定めにかかわらず、と書き出している。分譲マンションの評価を直した一枚を、今度は一棟ものに向ける。
ただ、これはまだ通達ではない。意見を募る案である。
5年以内に買った物件は、時価で
通達案の本体は1項と2項しかない。1項が「課税時期前5年以内に取得等された貸付用不動産の評価」、2項が「不動産特定共同事業等により小口化された貸付用不動産の評価」である。
1項の原則は短い。課税時期(相続開始日、贈与の日)の前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する。路線価と借家権控除で組み立てた従来の値ではない。市場の値である。
貸付用不動産の定義も案に入っている。全部または一部が借家権の目的になっている家屋と、その敷地の用に供されている宅地または宅地の上に存する権利である。相続等により取得したものを含む。
ただし書きが続く。その貸付用不動産の取得価額が、取得した時点の通常の取引価額に相当すると認められる場合には、取得価額を基礎にした評価ができる。土地等は取得価額に地価変動率を乗じた金額、家屋等は取得価額から取得から課税時期までの償却費の合計額(または減価の額)を引いた金額。そのそれぞれ100分の80である。
地価変動率の算式も載っている。課税時期の属する年に係る評価基準額を、取得の時の属する年に係る評価基準額で割る。評価基準額は原則、その土地が面する路線の路線価、路線価が付いていなければ倍率方式により評価した額である。土地の値動きの目安を路線価に置く設計だ。路線価そのものが市場価格にどう遅れているかは、路線価と基準地価を港区と銀座で並べた2026年の比較で扱った。
償却費は所得税施行令120条の2第1項第1号イ⑴の定額法で計算し、耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令による。取得から課税時期までに1年未満の端数があれば1年と数える。
適用しない型も列挙されている。収用等、交換処分等、換地処分、特定の事業用資産の買換えといった、租税特別措置法と所得税法が特別扱いする代替取得である。ただし「課税上弊害がない限り」という条件が付く。増築または改築に係る部分も、一定の場合に外れる。
「5年以内なら一律8割」ではない
「5年以内に買った貸付用不動産は一律8割で評価される」と読まれやすい。通達案の組み立ては違う。原則は時価であり、8割は「取得価額が取得等の時における通常の取引価額に相当すると認められる場合」という入口を通ったときにだけ選べる出口である。相続税対策として市場価格より高く買われた物件では、その入口が開かないおそれがある。
もうひとつ、地価変動率が乗る。平成に買った土地を令和に相続するなら、地価変動率は1ではない。100分の80は掛け算の最後に来る。
そして、その8割評価が及ばない領域がある。案の注7は、評価通達185(純資産価額)に定める土地等または家屋等を評価する場合には、この定めの適用がないとする。非上場株式の純資産価額方式のなかで土地を数えるときは、別の話のままである。
小口化商品は、元本の9割から
2項が扱うのは特定小口化商品である。不動産特定共同事業法2条3項の事業契約から生ずる収益の分配を受ける権利、および事業関係者により分割された信託受益権が対象になる。こちらは取得時期を問わない。
原則は同じで、課税時期の通常の取引価額。ただし元本等相当額が適正な価格情報に基づくと認められる場合には、精通者意見価格等を参酌して評価できる。その場合の水準が3本、梯子で置かれている。
| 記号 | 中身 |
|---|---|
| P1 | 元本等相当額の100分の90。課税時期前5年以内に開始された事業に係るものは、元本等相当額を1項に準じて修正した金額の100分の95 |
| P2 | 課税時期における精通者意見価格(事業者が有する適正な価格情報を含む) |
| P3 | 課税時期前1年以内に行われた鑑定評価額(事業者の依頼により不動産鑑定士が評価した、課税時期に最も近い日)の100分の95 |
P1からP3のうち最も低い額で評価しても差し支えない、と案は書く。事業者が破綻し、許可または登録が取り消され、事業の継続が不可能または著しく困難と見込まれ、かつ精通者意見価格等に該当するものがない場合は、1項に準じて評価する。
元本等相当額の定義も注にある。事業の開始の時に設定された特定小口化商品の価格のうち、その元本の額を構成する貸付用不動産の価格に相当する部分の金額である。取得価額ではない。
国税庁が並べた三つの事例
なぜこの通達が出てきたのかは、国税庁が令和7年11月13日の政府税制調査会「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」に提出した説明資料「財産評価を巡る諸問題」(デ4-3)に並んでいる。同庁が把握したスキーム事例である。
| 事例 | 取得 | 相続・贈与 | 取得価額 | 通達評価額 | 鑑定評価額 | 取得÷通達 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ① 杉並区の一棟と川崎市の区分所有 | H21.1/H21.12 | H24.6 相続 | 13.8億円 | 3.3億円 | 7.5億円/5.1億円 | 4.18倍/4.11倍 |
| ② 千代田区の一棟 | R1.8 | R4.5 相続 | 21.0億円 | 4.2億円 | 18.5億円 | 4.99倍 |
| ③ 不動産小口化商品の信託受益権 | R4.3 | R4.8 贈与 | 3,000万円 | 480万円 | — | 約6.3倍 |
出典は国税庁「財産評価を巡る諸問題」(令和7年11月13日)。①の鑑定評価額は物件ごと、②の数値は同資料の各価額の比較表、③は同資料6ページの事例である。
資料は同じページで、かい離の目安も出している。相続開始前の駆け込み取得の事例では3倍超が中央値、不動産小口化商品の贈与では5倍を超えるものが散見される、と書く。
当編集部は同資料9ページの別表から、小口化商品3件の減少割合を計算し直した。①3万7,500万円から6,465万円で82.8%、②3,000万円から484万円で83.8%(計算し直すと83.9%で、四捨五入の桁の違い)、③1万5,000万円から3,272万円で78.2%。資料の表記と一致する。同じ別表には、現金で贈与した場合と比べた税負担の軽減割合も並ぶ。95.7%、98.7%、78.2%である。現金で贈った場合の税額に対する実際の贈与税額の比は、4.3%、1.3%、21.8%になる。
9ページの別表は3件の小口化商品の贈与事例で、6ページの事例③(贈与者68歳、受贈者9歳)とは別の事案である。別表の②も取得価額3,000万円で、通達評価額は484万円と載る。同じ数字が二度出てくるが、同じ事案ではない。
この数字を通達案に当てるとどうなるか。机上の前提をひとつ置いて計算する。事例③で、元本等相当額を取得価額と同じ3,000万円、修正なしとすれば、P1はその95%、2,850万円になる。旧の通達評価額480万円の約5.9倍である。減らせる幅が消えるわけではないが、桁がひとつ変わる。
総則6項から、通達へ
同じ資料には、なぜ個別の通達を作る必要があったかが数字で置かれている。評価通達6項(この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する)の適用件数は、平成27年分から令和6年分までで27件。不動産13件、株式14件である。
少ない。少ないことが問題だった。令和4年4月19日の最高裁判決(民集76巻4号411頁)は、課税庁が特定の者の相続財産だけを評価通達の額より高く評価することは、合理的な理由がない限り平等原則に違反するとし、ただし実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には合理的な理由がある、とした。だから争いになる。6項を当てられた側は、なぜ自分だけ、と争う。争いが増えれば、他の納税者の予測可能性が削れる。
日本税理士会連合会は令和8年度税制改正に関する建議書で、6項の多用によって納税者の予測可能性が損なわれると書いた。日本公認会計士協会も令和8年度税制改正意見書で、6項の具体的な適用場面が納税者に明確でないと書いた。通達案は、この二つの文書が求めたものを、貸付用不動産という一領域で先に片付ける。税制改正大綱(令和8年度、令和7年12月26日閣議決定)が示した方針の具体化であり、法律ではなく通達で行う。
決まっていないこと
通達制定日は、案では空欄である。経過措置の欄は「令和8年●月●日〔通達制定日〕」と伏せてあり、建築中の定義——請負契約その他新築に係る契約が締結され、同日において工事が行われ、費用の全部または一部が支払われていること——も同じ日を基準にする。つまり、いま建築中の一棟ものの扱いは、通達が公布される日が決まるまで確定しない。
制定日までに、その日の5年前から所有している土地の上に新築した家屋等は従前どおり、という経過措置が置かれている。建築中のものを含む。読み方は日付が埋まってから確定する。
香港の読者にとって
香港には相続税がない。2006年に遺産税を廃止して以来、資産を評価して申告する手続きが日常にあるわけではない。だから香港の顧客に日本の一棟ものを勧める説明は、香港側の税制の言葉では出てこない。出てくるのは日本の通達の言葉だが、その通達が今、書き換えられている。物件が日本にある限り、値は相続税法22条の時価主義と、その時価をどう置くかを定める国税庁の通達が決める。香港側の評価の習慣は入らない。
効くのは令和9年1月1日である。同日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産の評価に適用する、と案は書く。逆にいえば、令和8年12月31日までの贈与は従前の評価で計算する。年の瀬の3か月と年明けの値は別物になる。相続の日は選べないが、贈与の日は選べる。
実務で押さえる点は3つある。ひとつ、取得から5年以内かどうかで制度が切り替わること。買ってすぐ相続が起きる前提の設計は、入口から見直しになる。ふたつ、通達制定日が空欄のままだと、建築中の物件の経過措置が読めないこと。みっつ、意見は10月18日17時まで、日本語に限り、e-Govの入力フォームまたは郵便で出せること。宛先は国税庁課税部資産評価企画官審査係である。寄せた意見は氏名と連絡先を除いて公表され得る。外国から制度に物を言える窓は、いつも開いているわけではない。
次に見るもの
関門は二つある。10月18日17時、意見の受付が閉じる。国税庁は寄せられた意見を踏まえて通達を定める。案の空欄「●月●日」が埋まる日であり、経過措置の基準日でもある。その次が令和9年1月1日、適用の初日である。それまでの相続と贈与は、いまの評価通達で計算する。
貸付用不動産の値が路線価から市場価格へ寄る方向は、令和8年度税制改正大綱で決まっている。動くのは、地価変動率の算式と8割の当てはめ方である。路線価は毎年7月に国税庁が置く。市場価格との差がどれだけ縮まったかは、来年のその数字と並べて初めて読める。まず10月18日である。