国外転出時課税の実務で、最初に間違えるのは金額ではない。日付と、書類の出し先である。1億円という線は法律に、5年と10年の数え方は政令に、猶予に必要な担保が何を覆うかは通達にある。

1億円も、10年も、5年も条文にある

足切りは法律にある。所得税法60条の2第5項は、国外転出の時に有する有価証券等と未決済の信用取引等・デリバティブ取引の合計額が1億円未満の居住者に、この特例を適用しない。同項は、国外転出の日前10年以内に国内に住所または居所を有していた期間(政令で定める期間)の合計が5年以下の居住者も外す。10年も5年も条文にある。

政令が定めるのは数え方だ。所得税法施行令170条3項は、出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格による在留期間をまず除く。その次の号が効く。納税猶予を受けた者は、出国の日から猶予の期限までの期間まで、国内に住所または居所を有していた期間に算入される。猶予を取ることが、次の5年判定を重くする。

評価額は、いつ時点の価額か

みなし譲渡の金額は、原則として国外転出の時の価額による。所得税法60条の2第1項は、その年の確定申告書の提出の時までに納税管理人を届け出た場合、届け出ないで出国後に申告する場合、決定がされる場合には出国時の価額を、それ以外の場合には国外転出の予定日から起算して3月前の日の価額を用いると定める。出国前に申告を終え、納税管理人も出していなければ、基準日は3月前に遡る。

納税猶予の要件はこれより厳しい。所得税法137条の2第1項は、納税管理人の届出を「国外転出の時までに」求める。届け出ない側にだけ効く規定もある。国税通則法70条5項3号は、この特例が適用された所得税の更正決定等ができる期間を通常の5年から7年に伸ばし、納税管理人の届出がある場合等を除く。

列挙は短い

対象資産は、有価証券と、所得税法174条9号に規定する匿名組合契約の出資の持分である。施行令170条1項が、譲渡制限の解除されていない特定譲渡制限付株式などを外す。未決済の信用取引等とデリバティブ取引は、有価証券等とは別に第2項と第3項で決済をしたものとみなされる。預金も、不動産も、貸付金も、暗号資産も、列挙にない。

猶予が求めるもの

納税猶予は原則5年、届出により最長10年(所得税法137条の2第1項・第2項)。要件は、出国の時までに納税管理人を届け出ること、確定申告書に適用を受ける旨と明細を記載すること、確定申告期限までに納税猶予分の所得税額に相当する担保を供することである。担保の種類は国税通則法50条による。国債や地方債、税務署長が確実と認める有価証券、土地、保険に付した建物、保証人の保証、金銭など。同条2号の有価証券は、所得税法137条の2第11項2号により、非上場株式等を含む形に読み替えられる。利子税の割合は、所得税法137条の2第12項が年7.3パーセントとし、租税特別措置法93条1項1号が、その年の利子税特例基準割合がこれを下回るときはその割合によると定める。低いほうが適用される——これも法律の話である。令和8年分の利子税特例基準割合は1.3パーセントである(国税庁、令和8年1月1日から12月31日)。この年については、7.3パーセントではなくこの1.3パーセントが適用される。

ここから先が通達の領域である。所得税基本通達137の2-10は、納税猶予分の所得税額に相当する担保とは、本税の額と猶予期間中の利子税の額との合計に相当する担保をいう、と説く。本税の分だけで足りるという読みは通らない。同137の2-9は、取引相場のない株式を担保として認め得る場合を二つに限る。課税された財産のほとんどがその株式で、ほかに適当な財産がないとき。ほかの債務の担保となっていて提供が適当でないとき。法律はこの二つを書いていない。

帰る5年、残る10年

出国の日から5年を経過する日までに帰国し、資産を持ち続けていれば、みなし譲渡はなかったものとできる。帰国とは、国内に住所を有するか、現在まで引き続いて1年以上居所を有することとなることである。手続は帰国の日から4月以内で、所得税法151条の2第1項が修正申告の道を定める。延長を届け出ていれば、この5年は10年に読み替えられる。

贈与と相続という出口

所得税法60条の3第1項は、贈与、相続または遺贈のいずれであっても、居住者の有価証券等が非居住者に移転した時に、その時の価額で譲渡があったものとみなす。贈与だけの規定ではない。足切りは国外転出と同じ1億円と、10年以内の5年である(同条第5項)。

贈与の猶予は所得税法137条の3第1項にあり、担保の提供が要件で、贈与の日から5年、届出により10年。相続または遺贈は同条第2項で、確定申告期限までに、その資産を取得した非居住者の相続人全員が納税管理人を届け出ることが要件に加わる。準確定申告の期限は、所得税法125条により、相続開始を知った日の翌日から4月を経過した日の前日まで。ただし、その日前に相続人が出国をするときは、その出国の時が期限となる。

相続税法は二か所で噛む。14条3項は、被相続人が受けていた納税猶予分の所得税額を、相続税の課税価格から控除する債務のうち確定した公租公課に含めない。納付の義務を承継した相続人が納付する分はこの限りでない。1条の3第2項は、猶予の適用を受けていた者が死亡した場合、その者を相続開始前10年以内のいずれかの時に国内に住所を有していたものとみなす。相続税の納税義務者かどうかの判定が、ここで動く。

出国の日取りは、評価の基準日と、書類の提出日と、帰国の予定で決まる。条文にない条件が通達にある以上、確かめる順序も決まっている。まず条文、次に政令、最後に通達である。制度が動くときは、たいてい後ろの二つから動く。