一つの土地に、三つの公的な値段

2026年9月16日、国土交通省(MLIT、日本の土地行政を所管する中央省庁)が令和8年都道府県地価調査を公表した。一般には基準地価と呼ばれる。国土利用計画法施行令第9条に基づき、各都道府県知事が毎年7月1日時点の基準地(調査地点)の1平方メートル当たりの標準価格を判定し、国交省が全国分をとりまとめる。今年の対象は21,466地点(うち福島第一原子力発電所の事故の影響による10地点は調査休止)。土地取引規制にかかる価格審査や、地方公共団体が用地を取得するときの算定の規準になる値であって、税務の物差しではない。

ここで一度、立ち止まっておく。日本の公的な地価はひとつではない。1月1日時点の標準地の価格を国土交通省の土地鑑定委員会が判定し、3月に公示するのが地価公示である。国税庁が路線価を公表するのは7月1日で、基準日は1月1日、使われるのは相続税と贈与税の申告である。順序は、1月1日の公示、それを参照して置かれる路線価、7月1日の基準地価。同じ町の同じ場所について三つの調査が三つの数字を出す。本稿で使うのはこのうち基準地価だけで、他の調査の数字を引くときは、そのつど調査名と基準日を書く。

なお国交省の報道発表は9月15日付、都道府県分の結果と個別地点の掲載は16日である。公表日を一枚で語らないほうがいい。

全国の梯子は、平均ではなく段差で読む

国交省が公表した圏域別・用途別の対前年平均変動率を、原表から組み直した。これが本稿の梯子である。

区分全用途平均住宅地商業地
全国+1.5%+1.0%+2.9%
三大都市圏+4.4%+3.2%+7.4%
東京圏+5.4%+4.0%+8.9%
大阪圏+3.6%+2.3%+6.8%
名古屋圏+1.9%+1.5%+2.7%
地方圏+0.4%+0.1%+0.9%
 うち地方四市+4.1%+2.9%+6.0%
 うちその他+0.2%0.0%+0.7%

(令和8年都道府県地価調査、基準日7月1日、9月16日公表。地方四市は札幌・仙台・広島・福岡)

全国の全用途平均は+1.5%で5年連続の上昇、商業地は+2.9%で上昇幅が拡大した。平均だけを読むと穏やかな数字である。段差を見る。商業地は東京圏の+8.9%と地方圏のその他+0.7%で13倍近く開いた。住宅地でいえば、地方圏のその他は0.0%——上昇でも下落でもなく、横ばいである。地方四市(+2.9%)とその他(0.0%)の差は、同じ「地方圏」という括りの内側にある。

持続の長さも揃っていない。東京圏の商業地は14年連続の上昇で上昇幅を広げ、東京圏の住宅地は6年連続。大阪圏は商業地・住宅地とも5年連続で上昇幅が拡大した。名古屋圏は6年連続の上昇だが上昇幅は縮み、地方四市は14年連続で上昇幅が縮小した。平均価格の水準も見ておく。国交省の時系列表で全国の平均価格は住宅地88,800円/㎡(前年84,800円)、商業地523,700円/㎡(同479,000円)、工業地56,300円/㎡(同52,600円)。商業地の平均値は、この後の節で扱う最高値の約100分の1である。平均は分布ではない。

上がった極と、下がった極

国交省が公表した全国の上昇率上位10地点と下落率上位10地点の原表から、両端を並べる。

基準地令和8年基準地価格変動率前年
上昇・商業地1位長野県白馬村 白馬5-1(明寿堂)32,000円/㎡+35.6%+14.6%
上昇・住宅地1位北海道富良野市 富良野-3(北の峰町11-21)68,100円/㎡+32.0%+27.1%
上昇・住宅地2位長野県白馬村 白馬-217,600円/㎡+31.3%+14.5%
上昇・商業地2位長野県野沢温泉村 野沢温泉5-150,800円/㎡+27.0%+24.2%
上昇・商業地5位北海道千歳市 千歳5-2194,000円/㎡+25.2%+31.4%
下落・商業地1位石川県輪島市 輪島5-120,500円/㎡▲6.8%
下落・住宅地1位宮城県加美町 加美-59,400円/㎡▲6.0%▲5.7%
下落・住宅地2位石川県輪島市 輪島-319,800円/㎡▲5.7%▲5.8%

(令和8年都道府県地価調査の変動率順位表、基準日7月1日)

頂点は長野県の山あいにある。白馬村の商業地の基準地は北安曇郡白馬村大字北城字平河6366番2外、店舗名は明寿堂。前年が+14.6%だったので、1年で上昇率が2倍以上に拡大した。同じ村の白馬5-2が商業地の全国4位(85,000円/㎡、+25.9%)に入り、商業地の上位4地点のうち2地点が白馬村である。住宅地でも白馬-2が2位、白馬-3が3位につけた。隣の野沢温泉村は商業地2位と住宅地4位。国交省は商業地の動向として「特にインバウンドが増加した観光地等では、旺盛な店舗・ホテル需要を背景に、高い地価上昇が継続している」と書き、住宅地でも「リゾート地域等では、別荘・コンドミニアムや移住者、従業員向け住宅の旺盛な需要を背景に」と記す。需要の正体を役所の言葉でいえばこうなる。

富良野市の基準地は北の峰町1981番62。北海道が自ら公表した令和8年度北海道地価調査書は、この地点の用途を住宅地、状況を「一般住宅のほかにペンション等が建ち並ぶスキー場に近い住宅地域」と記している。道内の基準地は997地点、うち住宅地714地点。道全体の住宅地平均は▲0.3%で2年連続の下落である。町村に限れば住宅地▲0.8%、商業地▲1.4%。同じ道の同じ年に、住宅地の全国1位と、住宅地の平均下落が同居している。

下がった側は3つの塊になった。石川県の輪島市と珠洲市——能登半島地震で大きな被害を受けた地域で、国交省は「地価下落が継続している」と書く。宮城県の加美町、大崎市、色麻町、気仙沼市——東北の人口減地域である。そして北海道の遠隔地。商業地の下落率上位10地点のうち7地点が道内で、広尾町、えりも町、日高町、松前郡福島町、江差町、上ノ国町、雨竜郡沼田町が並ぶ。沼田町の商業地は4,740円/㎡で、銀座2-6-7の1万分の1以下である。

最高値の主は、どの調査でも同じではない

全国の商業地の最高価格は、東京都中央区銀座二丁目2番19外、住居表示で銀座2-6-7、明治屋銀座ビル。令和8年の基準地価は52,500,000円/㎡(5,250万円/㎡)で、前年46,900,000円から+11.9%。国交省はこの地点を「平成18年以降、21年連続全国最高価格地点」と注記する。住宅地の最高は港区赤坂一丁目1424番1(赤坂1-14-11)の7,500,000円/㎡、+16.6%で、こちらは令和元年以降8年連続の全国最高である。

ここで、同じ銀座の数字が調査によって違うことを確かめておく。国税庁が7月1日に公表した令和8年分の路線価で、東京国税局管内の最高路線価は銀座5丁目の銀座中央通り。基準日は1月1日で、基準地価の銀座2-6-7とは地点も目的も違う。同じ「銀座の最高額」でも、税務の最高路線価と基準地価の最高地点は別の住所を指す。混ぜて読むと、どちらの主張も成り立たなくなる。

同じことは、スキーリゾートでも起きる。富良野市北の峰町には、基準地価の富良野-3(68,100円/㎡、+32.0%)と、地価公示の富良野-4(84,500円/㎡、+30.0%、北の峰町4777番33)が別々にある。国交省が3月に公表した令和8年地価公示の価格形成要因の資料が後者を北海道の上昇率1位として挙げ、9月の基準地価が前者を全国1位とする。同じ町の同じ用途、同じ年の数字が2万4千円/㎡違うのは、調査の違いと地点の違いが重なっているからで、どちらかが間違いなのではない。数字を並べる前に、調査名と基準日と地点を確認する。手間だが、これを省くと比較そのものが意味を失う。

調査が数えていない二つの災害

国交省の概要には、一行の注記がある。「令和8年熊本地震」及び「令和8年8月千葉豪雨」による影響は反映されていない。基準日は7月1日だから、それ以降に起きた災害は価格に入っていない。今回の調査で被災地の下落を読むことはできない。

反映されている災害もある。能登半島の被害地域の下落は調査に織り込まれ、輪島市と珠洲市の基準地が下落率の上位に入った。ここから読み取れるのは、この調査が年に一度、7月1日の時点を切って撮る写真だということである。災害の影響は、次の写真——2027年7月1日——に初めて写る。千葉県の基準地がどの方向に動くかは、そのときまで分からない。

香港の家にとっての日本の二極化

香港ドルに直すと、この二極化は別の顔になる。本誌の画面のレート(2026年9月22日07時15分香港時間)は1ドル157.27円、1ドル7.8454香港ドル。円安の水準で、日本の地方の土地は香港の感覚では極端に安い。

銀座2-6-7の52,500,000円/㎡は約2,619,000香港ドル/㎡、平方フィートで約243,000香港ドル。白馬村の商業地32,000円/㎡は約1,596香港ドル/㎡、平方フィート約148香港ドル。富良野の住宅地68,100円/㎡は平方フィート約316香港ドル、能登の輪島市の商業地20,500円/㎡は約95香港ドルである。銀座の1平方フィートで、白馬の商業地は約1,640平方フィート買える。数字だけを見れば、リゾート地の土地は投機ではなく余暇の買い物に見える。

だが2つの極は、安さの理由が違う。白馬村の上昇は需要が価格を作っている。国交省の公示地価の資料は、白馬5-1が存する八方地区について「売物件が極めて少ないことが高い上昇率の一要因」と書く。供給が細いところに外国人客とホテル開発の需要が当たっている。輪島市の下落は、需要そのものが戻っていないことの値段である。同じ「安い」でも、出口の見え方が違う。

見るべきは、提示された数字がどの調査のものかである。不動産会社の資料でも、銀行の担保評価でも、出典が地価公示なのか基準地価なのか路線価なのかで基準日が半年から1年ずれ、金額も動く。加えて基準地価は土地だけの値段で、建物は入っていない。標準地という地点の価格であって、売買の値段でもない。

同じ7月の基準地価を税務の側から読んだのが、本誌の路線価と基準地価、港区と銀座で並べる2026年の税務評価と市場価格である。東京の都心に限った二つの値の関係を扱っている。英語版のTokyo prime land: Minato leads, Marunouchi lags in the benchmark surveyは、同じ調査の東京都心を半年ごとの速度で読んだ。本稿が扱ったのは、そのどちらでもない——全国の両端の地理である。

次に読む日付

順番は決まっている。2027年3月の令和9年地価公示(基準日1月1日)、それを参照して2027年7月1日に公表される令和9年分の路線価、2027年9月の令和9年基準地価。この3つの公表を並べれば、同じ年に3つの数字がどうずれるかを毎年確認できる。

この1年で見るべき地点は4つある。白馬村と野沢温泉村——上昇率が2桁を保つのか、それとも供給が追いついて鈍るのか。富良野市北の峰町——道全体の住宅地が下落するなかで、一地点だけが逆を向き続けるのか。千歳市——商業地+25.2%は前年の+31.4%から減速しており、半導体工場の周辺需要が一服するのか。そして能登の輪島市と珠洲市——下落が止まる最初の年はいつか。

7月1日より後に何かが起きれば、それは今年の調査には入っていない。熊本地震と8月の千葉豪雨がその位置にある。次の写真が現像されるのは、2027年9月である。