e-Taxは今日、止まる。令和8年9月19日(土)0時00分から、9月24日(木)8時30分まで、申告も、申請も、届出も、納付もできない。国税庁が4月22日に出したお知らせにそう書いてある。9月26日(土)は終日止まる。
止める理由は、システムを替えるからである。国税庁は自らのページに「令和8年9月24日に国税システムの更改を予定しています」と書き、国税総合管理システム(KSK)から次世代国税総合管理システム(KSK2)へ移す。KSKは平成13年から、全国の国税局と税務署を結んできた基幹の網である。
止まる五日と八時間半、そして戻ってくる時刻。今日の実用はそこにある。
法律は動かない
先に、変わらないものを置いておく。所得税法60条の2は、国外転出の時に有価証券等を1億円以上持つ居住者の含み益に、出国の時に譲渡があったものとして課税する。この規定は平成27年7月1日以後の国外転出に適用されてきた。9月24日に動くのはシステムであって、条文でも政令でも通達でもない。
出国税の中身——1億円の線、担保、5年と10年、申告の期限——は、出国税の実務が条文と通達に分けて確かめている。ここでは繰り返さない。
この区別は実務では大きい。9月24日をまたいで出国する人は、制度が変わるから慌てるのではない。書類を出す窓口が止まるから慌てる。
縦割りから横断へ、と説明されている
KSK2で国税庁が自ら公表している変更は、様式と番号と電子交付である。一部の書面申告書や申請・届出書、法定調書の様式が新しくなり、申告書の控用はなくなり、配色は原則白黒になる。税務署から届く通知等には13桁の「お問い合わせ番号」が印刷される。処分通知等の電子交付は対象が広がり、同意の方法が「申請等の都度の同意」から「事前の一括同意」に変わる。e-Taxの接続IPアドレスは固定から動的になり、IPアドレスを指定して接続していた事業者はURLでの接続へ切り替える必要がある。
それより大きな変化は、国税庁のページに表として載っているわけではない。税目別の縦割りから、納税者単位の横断へ。これは税理士・会計事務所の側が口を揃えて言う点である。辻・本郷税理士法人は8月5日の解説で、所得税・相続税・贈与税・法人税のデータが横断的に一元管理され、「法人の売上は低いのに、個人資産が急増している」といった不整合が検知され得ると書く。元国税調査官の市田佳祐氏(大阪国税局資料調査課で国際課税・富裕層を担当)も、複数税目を横断的に分析できる点をKSK2の大きな特徴に挙げる。
ただし、国税庁自身が一次資料で示す言い方はもっと控えめである。令和8年7月の「国税庁におけるAIの活用」は、KSK2への更改で「従来書面で管理していた情報のデータ化などによりデータで管理する情報が増加することを踏まえ、構築してきた予測モデルの精度を向上させる」と書く。モデルが読むのは、申告、法定調書、決算情報、資料情報、調査事績——国税当局がすでに保有しているデータである。
同じ机に載る三つの記録
横断の材料は、法律がすでに集めている。
CRS(共通報告基準)は、外国の金融機関を使った国際的な脱税や租税回避に対処するため、非居住者の金融口座情報(氏名・住所・口座残高など)を税務当局間で定期的に交換する国際基準で、OECDが策定した。国税庁が令和8年1月28日に公表した令和6事務年度の事績では、日本は日本居住者のCRS情報274万5,374件を101か国・地域の外国税務当局から受領した。口座残高の総額は約17兆7,000億円である。交換が可能な国・地域は令和8年1月1日時点で115、香港はその一つである。
国外送金等調書は、金融機関が100万円を超える海外送金と海外からの入金について税務署に提出するもの。国外財産調書は、12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を持つ居住者(非永住者を除く)が、翌年6月30日までに出す一枚である。後者の実務——線の引き方、価額の決め方、5%軽く・5%重くなる値段——は、国外財産調書の実務が条文単位で追っている。
見落とされやすいが、確かな手がかりがある。KSK2への更改に合わせて、これらの報告の仕様も「KSK2対応版」として差し替えられている。国税庁のe-Tax仕様公開ページには、「報告事項の提供方法(CRS)に係る仕様書(KSK2対応版)」が並ぶ。CRSの報告が新しいシステムの表面に載ることは、仕様書の一覧が示している。
机の上に載る金額
では何が見えるのか。数字で置く。
国税庁が受領したCRS情報は、令和2事務年度の1,906,896件から、令和3の2,500,664件、令和4の2,526,181件、令和5の2,455,288件、令和6の2,745,374件へ動いた。口座残高は12.6兆円、14.0兆円、16.4兆円、14.2兆円、17.7兆円。件数も残高も令和5事務年度に一度下がり、令和6事務年度に跳ねた。日本が提供する側は6.8兆円、4.9兆円、5.1兆円、5.6兆円、8.1兆円と、受領の3割から5割の間で動いている。増えているのは件数より金額である。
偏りも同じ資料から読める。受領274万5,374件に対し、日本が外国へ提供したのは32万8,034件で、8.4倍。残高では受領17.7兆円に対し提供8.1兆円で、2.2倍。受け取る側に重く寄っている。
素朴な割り算も一つ。受領分の内訳は、個人口座が約272万件で残高約9.6兆円、法人口座が約3万件で残高約8.1兆円。単純に割れば、個人口座は1件あたり約353万円、法人口座は約2.7億円になる。「海外口座を持つ個人が一斉に可視化される」という読みは、この内訳と一致しない。金額の重みは法人口座にあり、件数では地域別でアジア・大洋州が185万8,808件、67.7%を占める。
追徴の額に出る
システムが何を生むかは、調査の結果に現れる。国税庁が令和7年12月に公表した令和6事務年度の調査等の状況によれば、所得税の調査等による追徴税額は1,431億円で過去最高。実地調査は4万6,896件と微減し、1件当たりの追徴税額は241万円に上がった。国税庁はその要因の第一に「選定にAIを活用するなど、効率的かつ的確に調査等を行った」ことを挙げている。
富裕層の数字はさらに濃い。富裕層への実地調査は2,427件、1件当たりの追徴税額は855万円で、実地調査全体の299万円の2.9倍。海外投資等を行っている富裕層に限れば1,595万円、5.3倍である。同庁はこの調査で、国外送金等調書、租税条約等に基づく情報交換、CRS情報を「効果的に活用し」たと明記する。海外投資等を行っている個人全体でも2,666件、1件当たり866万円だった。
突合そのものは新しい話ではない。新しいのは速度と網羅性である。
「AIが富裕層を狩る」の限界
いま日本で流通している言い方に触れておく。「AIで税務調査が厳しくなる」「KSK2で逃げ場がなくなる」——元国税調査官の市田佳祐氏は、そうした見出しの記事がこの1〜2年で急増したと書き、煽りには与しない。同氏によれば、AIは調査対象の選定に使われるのであって、調査そのものは調査官が人の手で行う。着眼点は変わらず、変わるのは選定の精度と速度である。
国税庁の資料も同じ方向を指す。令和8年7月のAI文書は、予測モデルの判定結果について「最終的には必ず職員が判断しています」と明記し、追徴税額の注記では「調査対象の全てが予測モデルを活用した事案ではない」とわざわざ断る。読むのは保有データである。
「丸見え」という語を使う解説は、税理士・会計事務所の側にもある。辻・本郷税理士法人は8月5日の解説で、KSK2が外部ネットワークに接続することで、閲覧履歴や購買履歴、位置情報まで税務署に取得され得ると書く。KSK2が税目横断の一元管理を核心とすること自体は、国税庁の説明とも整合する。だが閲覧履歴や位置情報の取得を認める条文は、同法人が根拠に挙げる国税通則法74条の7の2にはない。国税庁が自らの文書で説明する分析対象は、申告、法定調書、資料情報、調査事績である。ここは分けて読む。
香港の読者にとって
香港、日本、そしてその間を動く読者には、この更改は二つの形で効く。
一つ目は記録の側である。CRSの受領元101か国・地域に香港は入り、地域別ではアジア・大洋州が受領件数の67.7%を占める。日本の税務当局が香港の口座情報を持つこと自体は、もう前提である。KSK2が変えるのは、その情報を国内の申告と並べる作業の速さだ。
二つ目は自分の側である。日本を出る予定があるなら、動くのは法律ではなく窓口だ。9月19日から24日朝までe-Taxは止まり、26日も終日止まる。9月中に申告・納付の期限がある人、納税管理人の届出を出す人、出国前に書類をまとめる人は、この停止期間を予定に組み込む必要がある。出国税の判定は出国の時点の資産で行われ、申告の期限と書類の出し先は条文と通達で決まっている。システムの都合で期日が動くことはない。
次に見る日
9月24日(木)8時30分、e-Taxが戻る。同じ日から、処分通知等の電子交付は一括同意に切り替わり、e-TaxのIPアドレスは動的になる。9月26日(土)は終日止まる。
その先に、最初の繁忙期がある。KSK2が最初に処理する確定申告は令和8年分、2027年2月から3月の窓口である。国外財産調書の次の判定日は2026年12月31日、期限は2027年6月30日。新しいシステムの予測モデルがその申告をどう並べるかは、申告が終わったあとの調査事績に現れる。富裕層の1件当たり追徴税額が855万円からどう動くか——それが、この更改の答え合わせになる。