先週末、米10年国債の利回りは4.969%で引けた——5%の目前である。週末に市場は開かず、水準はそのまま止まっている。円は1ドル154円台。日本の10年債利回りは2.92%だ(財務省、9月10日)。
この三つを並べたとき、5%という数字は利回りの大きさの話ではなくなる。ヘッジという関門の向こう側には、いま2.9%台の国内債が立っている。
二本の曲線
9月11日時点の米国の曲線は、2年4.63%、10年4.96%、30年5.35%(米財務省)。日本側は、2年1.82%、10年2.92%、30年4.00%(財務省、9月10日)。
同じ10年で比べれば、日米の差は約2.0ポイント。為替をヘッジせずに取れる上乗せであり、同時に、円が動けばそのまま消える上乗せでもある。
注目すべきは曲線の形のほうだ。米国は2年から10年までが0.33ポイントしかない。10年から30年へは0.39ポイント。つまり、8年分のデュレーションを足して増える利回りは0.33ポイントにすぎず、長い側の報酬はさらに先の年限に集中している。
国内はどうか。かつて「長い年限ほど利回りが低い」と言われた日本の曲線は、いま普通の右上がりである。30年債の4.00%は米10年債の4.96%と1ポイントを切る差になり、為替リスクを取らずに得られる長期の利回りは、そこまで来ている。
ヘッジすると何が残るか
日本の投資家が米国債を持つ方法は二つある。為替を取るか、ヘッジを払うかだ。
ヘッジのコストは、おおむね短期金利の差に見合う。米2年4.63%と日本2年1.82%の差は約2.8ポイント。これをヘッジコストの近似として10年債の4.96%から引くと、およそ2.2%が残る。国内10年債の2.92%を下回る。実際のコストはフォワードとクロスカレンシー・ベーシスで決まるので、この差そのものではない。だが方向は同じだ。
ヘッジして米デュレーションを持ち、それでも国内債に劣る——これが5%という数字の裏側である。ヘッジ付きで持つ理由は薄くなり、残るのは為替の方向を取る取引になる。
キャリーの燃料は短期にある
円キャリー取引の燃料は、5%ではなく短期金利差だ。日銀の政策金利は1.0%程度(6月16日の会合で引き上げ、7月31日は8対1で据え置き。反対した一人は1.25%を主張した)。調達は1%程度、運用はドルの短期市場——その差が数ポイント。ここが取引の本体である。
5%の米長期債は、その上に乗る別の賭けだ。得られるのは期間プレミアムであり、米国曲線では2年と10年の差、0.33ポイントにあたる。為替の一撃が損益を決めるという話は前回の円キャリー稿で扱った。ここで分解したいのは、同じ5%のうち、どれだけがデュレーションへの報酬で、どれだけが為替を引き受ける対価なのか、である。
デュレーションの代価
10年債の修正デュレーションは約7.7。利回りが1ポイント上がれば、価格は8%前後下がる。0.5ポイントの上昇でも、一年分の利息の大半が消える。
これが米デュレーション保有のコストである。5%という利回りは、価格の振れ幅の前では小さい。国内債にも金利リスクはあるが、為替リスクとヘッジコストはない。
出口が狭い、という言い方には二つの意味がある。一つは前稿で扱ったキャリーの出口——混雑したポジションの清算。もう一つはデュレーションの出口で、こちらはもっと静かだ。ヘッジコストは短期金利差で決まるから、日銀が動けばコストは上がり、ヘッジ後の利回りはさらに薄くなる。売る必要に迫られなくても、持つ理由のほうが先に消える。
見るべき数字
一つ目は日銀の金融政策決定会合(9月17〜18日)。結果そのものより、その後の経路がヘッジコストを動かす。
二つ目は日米の短期金利差(約2.8ポイント)。ヘッジコストの源であり、日本の投資家が米国債を買う理由の源でもある。
三つ目は米国曲線の形——2年と10年の差(0.33ポイント)と、10年と30年の差(0.39ポイント)。デュレーションに払われる報酬が、増えているのか縮んでいるのか。
5%は、日本の投資家にとっては利回りではなく値段である。デュレーションに払われる報酬がヘッジコストを上回っているうちは、この水準は魅力的に見える。上回らなくなったとき、5%はただの水準に戻る。報酬とコストの差は、日銀の経路と米国曲線の形が決める。