この9月、円は対ドルで154円台にある。米国の10年債利回りは5%前後、日本の金利はなお低い。金利差は再び広く、低金利の円で資金を調達して高い利回りを買う取引——円キャリー取引——は、派手な話題になることもなく静かに積み直されている。日経平均が64,000円台で推移する平穏の下で、問いは古いままだ。この出口は、どのくらい混んでいるのか。

仕組みの復習

円キャリー取引の構造は、小学生に説明できるほど単純だ。低い金利で円を借り、より高い利回りの資産——米国債、メキシコペソ、豪ドル、あるいは株式やクレジット——に替えて持つ。儲けは金利差である。ただし、円が動かなければ、という但し書き付きだ。

この但し書きが曲者である。年に数%の金利差を稼ぐ取引は、円が一割上昇すれば数年分の利益を一瞬で失う。キャリー取引の損益は、資産の側ではなく調達の側、つまり円という通貨そのものの動きに賭けられている。154円台という水準は、この賭けが再び成立していることを意味する。

引き金は二つ

巻き戻しの引き金は、たいてい二つ組で来る。日本銀行の政策変更と、米国の雇用をはじめとする景気指標だ。金利差が縮小方向へ、景気が減速方向へ向かえば、円は急騰し、証拠金で積み上がったポジションは強制決済の連鎖に入る。

2024年8月にはこの二つがほぼ同時に引かれ、日経平均は12.4%安と過去最大の下げを記録した。市場は数日で落ち着きを取り戻したが、「数日で元に戻った」ことと「何事もなかった」ことは別である。戻ったのは価格であって、出口の混雑が示した構造は何も解消されていない。現在も日銀の政策は正常化の途上にあり、米国の景気は指標ごとに強弱が入れ替わる。条件は似ている。

混雑の構造

混雑が危険なのは、積み上がり方にある。投機筋の円売りポジションが極端な水準に達し、レバレッジはファンド、仕組み商品、個人の信用取引と何層にも重なる。円安が進むほどキャリー取引は儲かり、儲かるほど参加者は増える。自己強化する回路だ。

巻き戻しは直線では来ない。売らなければならない人が、まだ買いたくない人に売る。だから値段は跳び、想定外の資産——日本の銀行株から米国のハイテク株まで——が連れて下げる。混雑した取引の清算は、必ず無関係な資産の値段を壊す。

監視すべき項目

この取引に個人的な記憶を持つ読者へ。見るべきは資産の側ではなく調達の側だ。為替ヘッジ比率、円建て証拠金の条件、保有ファンドに潜むキャリー的な素性。引き金は再び二つ組で来ると心得る。日銀の政策と、米国の景気指標だ。

キャリー取引は消えない。金利差がある限り、誰かが必ずこの取引を始める。いま154円台で積み上がるポジションも例外ではない。平穏は借り物だと心得て、ポジションが極端に振れた時こそ出口の幅を測り直す。次の清算は、カレンダーに印を付けては来ない。