ポルトガルが2023年、ARIと呼ばれる黄金ビザの不動産ルートを閉じた時、この市場は終わると思った者は多かった。実際には、申請は止まらなかった。商品が「家を買う」から「基金に出資する」へ入れ替わっただけである。2026年の地図を広げると、育ったのはビザではなく、買う側の目だった。
欧州は値上げと選別
欧州の方向は一貫している。値上げと選別だ。ポルトガルのARIは不動産を外し、投資基金や文化・研究への出資といったルートに重心を移した。審査の遅れはしばしば指摘され、気の長い申請者向けの制度になりつつある。ギリシャは地域ごとに段階を設け、アテネや人気の島々ほど高い最低投資額を課す仕組みに変えた。
そしてマルタである。MEINと呼ばれる投資市民権の仕組みは、2025年4月の欧州司法裁判所の判断で実質的に終わりを告げた。金で売る市民権は、欧州連合の中ではもう商品ではない。居留権の商品は残っても、旅券の値段は消えた。
湾岸とアジア
湾岸は逆に、門を広げ続けている。UAEのゴールデンビザは10年の長期居留を掲げ、投資家だけでなく専門職や研究者にも開かれた。保証人なしで暮らせる設計は、地域の人材集めそのものだ。
アジアの二強は性格が違う。香港のCIESは2024年に再開され、3,000万HKドルの適格資産で居留への道を開く。シンガポールのGIPは事業投資を求め、13Oや13Uのファミリーオフィス税制は資産規模に加えて現地での支出と雇用を条件にする。香港は資本を置かせ、シンガポールは生活を根付かせる。
カリブの床
市民権そのものの市場はカリブに残った。ただし2024年、主要プログラムは20万米ドルという値段の床に合意し、安売りの時代に終止符を打った。身元審査の厳格化も進む。旅券は商品だが、叩き売りの商品ではなくなった。
日本という鏡
比較のために日本を置くと、輪郭が見える。日本には黄金ビザがない。あるのは高度専門職のポイント制で、点数の高い専門人材に永住への近道を開く制度だ。資本ではなく職能に門を開く国、という輪郭である。国外への移転には、一定の資産家を対象に含み益へ課税する出国税の存在も、日本の読者には背景知識として要る。
地図はこれからも書き換わる。門は閉じ、値段は上がり、商品は入れ替わる。それでも買い手が手にするのは生活だ。次の改正を待つ間に問うべきは一つ、家族が実際に何年そこで暮らせるか。その答えが、どの制度の底値も決め続ける。