香港は2024年3月1日、9年ぶりに投資移民の窓口を開けた。新しい資本投資者入境計画、通称CIESの条件は一見して明快だ。3,000万HKドルの適格資産を香港に置く。学歴も言語試験も点数計算もない。問われるのは資本の置き方だけである。
枠組みの要点
公開された仕組みの骨格はこうだ。3,000万HKドルのうち、300万は指定の投資ポートフォリオに振り向ける。残りは株式、債券、ファンドなどの適格金融資産で運用する。不動産にも投資できるが、算入される金額には上限が設けられており、マンションを買うだけで居留権を得る制度ではない。
実務上の注目点は、持ち方の選択肢である。制度は後に、申請者個人だけでなく、家族が実質的に所有する持株会社を通じた保有も認める形に整えられた。ファミリーオフィス的な器で資産を持つ家族にとって、名義の設計が一段楽になった。ルールの細部は改正が入ることもある。2026年9月時点の最新の条文は、申請前に必ず一次情報で確かめたい。
向いている人、向いていない人
向いているのは、香港を拠点に中華圏の事業を見る経営者、資産の一部をオフショアに置きたい一族、将来の居住選択肢を確保しておきたい家族だ。求められるのは資産の維持であり、事業の立ち上げではない。現地で人を雇う義務は、原則として課されない。
向いていないのは、急いで旅券が欲しい人だ。永住には7年の居住が前提で、投資はその間、維持し続ける必要がある。また、不動産に算入上限がある以上、香港の家を買いたいだけの人は、別の道を探す方が早い。
シンガポールという鏡
比較されるのは常にシンガポールだ。GIPは事業への投資を求め、ハードルは総じて高い。13Oや13Uと呼ばれるファミリーオフィス税制は、資産規模の下限に加え、現地での支出や雇用といった条件を課す。香港が「資本を置いて待て」と言うのに対し、シンガポールは「来て、動いて、使え」と言う。どちらが安いかではなく、どちらの生き方が合うかの問題だ。
実務の落とし穴
申請の山場は資金の出所である。3,000万HKドルの来歴を、書類で、数年分さかのぼって説明する。ここで躓く申請は少なくないと専門家は口を揃える。投資対象の乗り換えにも手続き上の決まりがあり、売って現金のまま持つ自由はない。
門は開いたままである。だが門の内側で待っているのは、利回りではなく書類だ。この制度を使う家族ほど、資産より先に帳簿を磨いておく。